読書尚友

A reading room in Nagoya

98 グレアム・グリーン「権力と栄光」

f:id:Balance1950:20210904080125j:プレーン

20世紀のメキシコ革命カトリックは禁教となる。 神父は国外追放。 立ち去らなかった一人の神父の処刑されるまでの物語。 神父たちは居なくなったが、ミサを求める民衆は残っていた。 神々しい聖者の物語ではない。 ウイスキー神父。 のんだくれ。 追手が間近に。 バーの床物陰に隠れるが、ポケットのウイスキーの壜がカチャっと音をたて、見つかり走り出す、とかの話。

「権力と栄光」早川書房 1980年 全集第8巻 タイトルの「権力と栄光」のんだくれ神父の逃亡劇で、誤訳に近い。 原題 The Power and the Glory 定冠詞 the の訳し方であるが、      前回の吉田健一さんのニューヨークで飲んだカクテル

This is the drink for hot weather. これこそ夏の好飲料だ。」 的な使われ方か。

破戒司祭の聖職性がテーマの小説であり、the は神をさししめしている。 

権力と訳しては 世俗をさししめしてしまう。

 

エピグラフ

囲みはせばめられ、猟犬と死の賢い力は刻々と追ってきた。 ドライデン

主人公はマリアという女に私生児を生ませるほどの破戒神父。カトリック禁教の国法に対する反逆者であり、教会法にも反逆。自問自答を繰り返す。神に追われ、神に試されているのか。準主役の刑事が執拗に追い、逃亡と追跡のスリリングな展開。メキシコ人とインディアンの混血児の裏切りにより逮捕され、処刑される。

 

キリスト教文学会に参加していたころ読んだ作品で、周囲には「グリーンはイイね」の初老の人たちが群れていた。それほどでもない の心象の作品。オモシロイとは言えそう。最後の復活の記述をどんな次元で受けとめたらいいのでしょうか。

 

グレアム・グリーン作品なら「情事の終わり」全集12巻。 友人の英語教師 F さん「セアラがいい」。彼の文学世界最高のヒロイン とのこと。読んで彼の話を聞こうと思っていましたが、お亡くなりになったと伝え聞きました。どうしましょう。