読書尚友

A reading room in Nagoya

159 斎藤茂吉 「つきかげ」

71歳になって はじめて斎藤茂吉の短歌にはじめて共感を覚えた。

最晩期の「つきかげ」の歌においてである。

 

朝飯をすまししのちに臥処にてまた眠りけりものも言はずに

あさいひ      ふしど

 

私は今朝 そうであった。体験する心情は同一かな。

一首だけでなく

 

「ひとりぽっちで、厚ぶすまで体をうづめ、とっぷりと獣類の穴籠ごもりするやうな感じで、ほのりほのりと暖まるといふことは、全身が清爽で何ともいへぬ終末である」

    「老境」昭和24年

 

黄海もわたりゆきたるおびただしき陣亡の馬をおもふことあり

 

戦時への追想。戦争で死んだ一切の無言の生命への哀悼。

私もガダルカナルから帰った父の言葉を時々思い出す。自分が職場で歯をくいしばったいやな思い出ではなく、思うのは幕末の尾張藩青松葉事件で切腹した祖先のことであったり、父の戦時の話であったりする。そんなに多くを聞いたわけではない。知っているわけでもない。

 

一様のごとくにてもあり限りなきヴァリエテの如くにてもあり人の死ゆくは

 

いつしかも日がしづみゆきうつせみのわれもおのづからきはまるらしも

 

同感である。