読書尚友

A reading room in Nagoya

194 バッハの生涯と芸術

フォルケル「バッハの生涯と芸術」柴田治三郎訳 岩波文庫 1988年

「バッハも挫折を繰り返していた。それを熱烈な天分と熱烈な勤勉さで切り抜けた」

                           フォルケル

バッハの音楽に神秘を感じるが、やはり人間の作品であろう。そこには幾多の困難が横たわっていたが、バッハは先行する作品に学び、推敲を続け美しい曲を創造とフォルケルは言う。中学生のころから60年間バッハを聴き続けているが、納得のいく指摘である。

「著者フォルケルは ロマン派の人々と対立 バッハ以後の音楽を退廃だと考えた」と訳者柴田氏は指摘する。私も退廃説に同感である。60年間 バッハをそろそろ卒業してロマン派に目覚めねば という漠然たる思いがあったし クラシック音楽というと主にロマン派が演奏され続けているが、私は退廃を感じて、さけてきた。この本ではじめてロマン派は退廃の言葉に接し ほっとした。

193 すてきなあなたに

「すてきなあなたに」暮らしの手帳社 昭和53年

花を買う 

私は贈る相手の年齢、雰囲気、贈る状況など細かく伝えて花束を買います。花屋さんに才能がある場合 素晴らしい花束が出来上がります。若き日には、金額だけ言っていましたが、そうすると男ということで 黄色と青の花 金額で大きな重い花束になり野菜を抱えている感じでサイアク がっかりしていました。

桃がおいしくない時

これは本当悲しい。私は買うお店を変えますが、こういう手があったのですね。

暮らしの手帳社

昔は商品テストがあって 洗濯機とか 掃除機 テレビなどを  ナショナル(今のパナソニック)サンヨー(今ではなくなった会社)三菱 シャープ など各社製を比較。洗濯機、テレビなどの普及の時期で 主婦の労働が軽減され 新しい生活スタイルが生まれていった時代の大事な指南書だった雑誌。生活水準が上昇、みんなが掃除機、エアコンなど持っている時代となると、この「すてきなあなたに」のコーナーが注目された。フランスで暮らした人のスープ作りの話 とか テーブルクロスの選び方とか 生活の質の向上へのアドバイス

 

 

192 有田正三「エンゲル法則考」

有田正三「エンゲル法則考」彦根論叢 第228・229号 昭和59年

 アメリカの社会学者ジンマーマン Carle C.Zimmerman のエンゲル法則に関する所説の紹介が主な内容であるが、有田正三教授の透徹した視点も明確に提示してある。簡潔でユーモアあり。

 エンゲル法則とは「一つの家族が貧乏であればあるだけ、総支出のいよいよ多くの割合が飲食物の調達に充当されなければならない」

 上掲のページはエンゲル法則との不一致の事例。

 上海の工場労働者の家計 1929年 所得が上昇すると食費の比率も上昇。

 私の読書時の感想としては 中国では食品の種類が豊富で安価なものと高価なものの差は大きい。所得の上昇に見合った高価な食品が存在するのであろう。中国茶の店など手が届かない高価なお茶が並んでいる。庶民はたまごスープ お金持ちはフカヒレスープ。

 ハワイ人の家計 上層に移ると食費への支出額は上昇。

 ハワイ旅行の楽しみはグルメであろう。所得の上昇に見合った高価な食品があるのであろう。被服費に毛皮の外套を競わなくてもいい場所柄もあろうか。

 とすれば 現代の日本ではみんなコンビニの弁当であるから エンゲル法則は成立 となるのであろうか。など考えさせられ、 おもしろい記述と思われる。

 文末の 戦争、インフレーションとエンゲル法則の関係への注目の喚起など 良心的な社会科学者の思惟が伝わってきて爽快。

 家計調査の研究に広範な見識 彼の参考文献は戦前の家計調査を網羅している。












 

191 社会科学としての統計学

経済統計研究会編「社会科学としての統計学」産業統計研究社 1976年

経済統計研究会 1935年創立 1984年 経済統計学会に改称

社会統計学 京都学派の重鎮が勢揃い 

学問的格調、刻苦勉励は伝わってくるが、学者の世間体維持の域を出ず。

生き生きと日本社会のあり方を伝えてくれるようなあり方であれば 賛同できたであろうか。

そのためには 数的認識以外の社会認識全般と調和した研究、公表活動が望ましい。

具体的には たとえば 日本の貧困。 極貧の子供の作文、シングルマザーからの聞き取り記録 ルポなどとともに 統計を批判的に紹介 注目すべき論客、理論も紹介 といった多面的活動が社会統計学の初志にふさわしい。 

190 有田正三「社会統計学研究」

有田正三「社会統計学研究」ミネルヴァ書房 昭和38年

古本市場で現在一万円。現在においても傾聴に値する記述。

フラスケムパー、有田正三によれば

「社会的事実は余りに錯綜しているので、簡単に定式に分解しえない」

にもかかわらず 現代経済学は数式で構成されるようになった。このため、現実の経済の分析はできなくなっている。大学の経済学部修士課程を終えた段階で現実の社会経済問題を論ずることはできない人になっている。

 

現在(2024年8月初旬)アメリカ大統領選挙 トランプ支持46%  ハリス支持45%  どんな社会的階層がどちらを支持しているのか ウクライナ戦争の経済界への影響はどのようなもので 選挙にどんな影を落としているのか 「社会的事実は余りに錯綜しているので、簡単に定式に分解しえない」

189 リューメリン「統計学の理論について」

グスターフ・リューメリン著 権田保之助訳「統計学の理論に就て」大原社会問題研究所編 

栗田書店 統計学古典選集 第五巻 昭和17年 出文協承認 2000部

原著は1863年と1874年ドイツで出版されている。

統計学とは何か。良心的な言辞は俗説の否定から始まる。

社会についての統計的数値は 発見の興奮を伴って示される。それを批判して統計的認識が深まる。

リューメリンの時代 どんな数値が注目されたのか?

大英帝国時代のイギリス政府の負債 7億8千万ポンド。軍国主義ドイツ帝国の兵員40

万人。 興味関心は今と同じである。現在の日本政府の負債1000兆円。北朝鮮の兵員数120

万人。空軍だけでも11万人。誰しも注目し 考えるべき数値と私には思える。

そこから何を語るべきか? リューメリンの記述は興味深い。

「常には黙して語らぬ数字も、有識の人にのみ口を開くのである」

統計数値に至高の意味を語らせ得るのは統計学者ではなく 各分野の大家である。優れた経済学者が示す数値が経済現象を語りえるのである。

 

統計学者も必要な存在である。日本政府の負債が本当に1000兆円か、現時点では複利的雪だるま現象で1500兆円? 地方財政の赤字は含んでいる?など 実際の数値は統計学者の指摘を待たねばならない。

 

 

 

188 郡司正勝「おどりの美学」

郡司正勝「おどりの美学」演劇出版社 昭和34年

おどりの美しさ 花

上掲の文章のピンクの傍線箇所

今まで見た いいな とてもいい の おどり あてはまります。

この表現は私には奇跡的に思えます。この本を持っていることがうれしい。

ところが 今では日本の舞踊の美しさを語りあえる相手がいない。

郡司正勝 と言って このWEBページを読む人もほとんどいない。実に惜しいことである。

 

この本も私の葬式の後 しばらくして可燃ゴミとして廃棄されるのは確実である。

ただ 私は 国立劇場坂東三津五郎の最後の舞台を見た。よかった。12月の舞台で一月にはフグ中毒で突然亡くなったのだから、もう見ることはできない。私は見た。私の生はそのことで意義があったと断言できる。大きかった。(上掲文書参照)