読書尚友

A reading room in Nagoya

104 チャーチル「わが半生」

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W.チャーチル 中村祐吉訳「わが半生」角川文庫 昭和40年

Winston Churchill  My Early Life 

旅、悲嘆にくれる杜甫の旅、船酔いで半死半生勝海舟の旅、チャーチルの旅は・・

訳がいいのか、読んでいてとにかく楽しい。茶色くなった文庫本、記憶にあるのは南アフリカでの冒険(上掲写真)。今日のちょっと読みはキューバの章。イギリス軍の将校となった若きチャーチル、平穏無事の歳月が続き戦火をくぐった将兵皆無の時代、実戦にあこがれ地球上唯一の紛争地キューバへ。スペイン大使の親戚に頼みこみ渡航。植民地支配のスペインは8万人を投入、と反乱のゲリラと対峙は最終局面。はじめて実戦の地キューバに近づく「うれしいような、震える心」をチャーチルは宝島に近づく船長シルバーと主人公にたとえている。永井荷風が船でフランスに近づいた時の喜びように似ている。ユーモアあふれる文体。かつ「植民地というものは、いっぱいに手をひろげた先に鉄亜鈴を持つようなものだ」という冷静大局的な見方も。ひどい目にあっても、さらに冒険にもどり南アフリカへ。

「好戦的」を悪魔の心情とする今日の日本社会ではあるが、若きチャーチルの「好戦的」な文章も一読の価値あり。