読書尚友

A reading room in Nagoya

124 三宅晶子「歌舞能の確立と展開」

三宅晶子「歌舞能の確立と展開」ぺりかん社 2001

檜書店の現代語訳の謡本「対訳でたのしむ」シリーズ、薄いパンフであるがとてもいいシリーズの筆者。大学教授であるがしなやかな文体で簡潔な叙述。

能を聴きに行く時は、例えば演目が「隅田川」であれば「対訳でたのしむ」パンフの隅田川を読み、聴き所、風景の美意識など押さえ、座席では「百番集」で隅田川(台本)を眺め、謡の字句を詳しくとらえて聴く。はっきりわかた上で眠り、覚めたときの快さを味わう、というのが私のおススメです。そのガイド役パンフの著者がどんな人か、この本でわかります。

内容は、寺社の祭礼に奉仕する芸能でしかなかった能(翁猿楽)が劇形態の能に移っていくこと、とか世阿弥の本説取りの手法とか。楊貴妃とか俊寛とか小野小町とか、能の登場人物の多彩さを不思議と思いませんか?本説取の手法です。今の演劇界は万引き家族とか登場人物が小さい。良い伝統のある国なのに、残念です。

あとがき が興味深い。

「論文を一つ作り上げる作業の間、自分の羽を一本一本抜いて美しい織物を織る鶴と同じように、身を削って仕上げていくという、自虐的な陶酔の感覚も併せ持っている。」

そのような論文集。私は経済学部出身で別世界の人の言葉と響きます。