読書尚友

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123 西尾実「花鏡の問題」能楽全書

西尾實「花鏡の問題」能楽全書 第1巻 創元社昭和18年 

この文章において西尾が提示しているのは、「風姿花伝」の構造的把握法である。

世阿弥「花伝」は「風姿花伝」を含みつつ二十巻ほど。それぞれを読み耽ってしまうが、西尾は全体像を示してくれる。「花伝」には父観阿弥からの伝承が多数あり、「花鏡」こそ世阿弥のつくりだした世界。世阿弥を知りたければ「花鏡」が中核。「花伝」の内容構成はこうである、という文章。

シテ(能の主役)の宗家の秘伝であり、シテの立場、視点からの叙述。観客、読者として読むものではない。シテとして登場。一調二機三声。笛によって示される調子をくみとり、目をとじ、息、気合のタイミング 機。そして第一声。 ・・・

能楽全書」は筆頭の野上豊一郎以下論客繚乱。同種のものとして「岩波講座 能・狂言」1987年 があるが「能楽全書」の方を手にとりたくなる。風趣あり。

西尾實にしても道元正法眼蔵」岩波日本文学大系の注釈が見事である。同様の構造的把握が明示されている。

昭和18年の書物で今に残るものは名著が多い。戦時の統制で暗黒時代、という世評姦しくあれども いいなとひそかに思うものであります。