読書尚友

A reading room in Nagoya

115 東京に暮らす LIVING IN TOKYO

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キャサリン・サンソム「LIVING IN TOKYO 東京に暮らす 1928-1936」岩波文庫

「イギリスの外交官夫人。Katharine Sanson (1883-1981) の昭和初期の東京の街と人々の暮らし、印象記。ほのぼのとした人間観察。」と紹介文にはあるが、それ以上に大戦直前に大事なこと、必要なことを得難い視点から語りかけている。

第10章 日本人と旅

日本人は国内はよく旅行しますが、外国に行く人はごく少数です。法外な費用がかかるからですが、外国に行って視野を広げても、帰国後の適応が大変だから、わざわざ外国に行く必要はないと考えるからでもあります。・・・(若い人の医学、工学等研修は有意義)・・・漠然と教養を高める目的で外国へ行き、日本に帰ってからは、海外の情勢に疎い人々の間で、日本の生活に不満を懐きながら生きていくのであれば、外国に行かない方がいいと考えるのも当然です。東西の文明は非常に違うので、一方にうまく適応しているということは、もう一方には適応できないということが多いのです。

 

有名なところでは、対米戦争に反対した米国留学・山本五十六。毎朝高価なクロワッサンと珈琲、自宅内は西洋の文物万巻の書、それが東京空襲で燃え尽きるまで避難もせず眺めていた永井荷風。他にも海外留学で西洋かぶれの人は多かったようです。それを「不適応」という視点が貴重と思いました。東京空襲もヒロシマも、キャサリンさんは共に悲しんでくれたことでしょう。