読書尚友

A reading room in Nagoya

107 杜詩

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杜甫「杜詩」岩波文庫

旅夜書懐  杜甫

細草微風岸 危檣獨夜舟

星垂平野潤 月湧大江流

名豈文章著 官應老病休

飄飄何所似 天地一砂鴎

 

旅夜懐を書す  

細草微風の岸 危檣獨夜の舟

星垂れて平野潤く 月湧きて大江流る

名豈に文章に著われんや 官は應に老病に休すべし

飄飄何の似たる所ぞ 天地一砂鴎

 

危檣 高い帆柱  独夜 家族の寝静まった夜

あらわれんや 著は名をあらわすこと 

老病のときにおいては退休する

砂鴎 浜辺のかもめ    鈴木虎雄 黒川洋一訳注

 

永泰元年秋、忠州より下江した際の作。

ほそい草のはえた岸にかすかな風が吹く。

たかい帆柱をたてた舟にただひとり寝ずにいる。ずっとひろがった野原に星の光は垂れさがっており、大江の流れるうえに月の光が湧いている。どうして自分のごときものが文章のうえで名があらわれようぞ。自分のような老いかつ病んだ身では官職から退いて休むのがあたりまえだ。自分のただようておる境遇はいかなるものに似ているかといえば、それは天地のあいだにおけるひとつの沙鴎だ。

 

杜甫の詩、一つだけ選ぶならこの詩。

こころざし、人間としての在り方がかかれている。

科挙の試験をうけて何度か落第。地位、名誉を求める心ももちろんあったであろう。それと共に、おのれの誠実な人格を、政治にささげて、世のなかのすべてを誠実にしたいというのが杜甫の抱負であった。

君を堯舜の上にすすめまいらせて

再び風俗をして淳からしめん」  吉川幸次郎杜甫ノート」

 

大学生活の終わりのころ、まわりの人たちは就職が決まり、それは高度成長期で全員有名企業に就職、お祝いの会が次々と川沿いの小料亭であった。自分は大学院に落ち、さみしかった。それまでは歌というと流行歌もいいな、であったが、寂寞のこのころ、演歌は薄っぺらいと感じ、杜甫の詩が身にしみた。以来、杜詩文庫本8冊は何回かの引っ越しはあったが本棚に。揚子江夜景の詩というより、杜甫のこころざしが逆境にあっても美しく、星空と共鳴している。私にとっては、失意の日の歌。

 

杜甫の詩はよくわかる。伝わってくる。
中世の異国の詩人の思いがわかる とは思うのは不思議かな・・。

上の留花門の詩 

当時の中国中原を荒らすウィグル族の兵馬 それを「花門」と表現。

アメリカ占領軍を進駐軍と呼んだ日本人にはわかる気がする。

「徳を修めて」ウィグルの方から、敬意をもって近づくようにしましょう、というのは素晴らしい。今も中国はウィグル族に手をやいて収容所で虐待している との報道あり。現代中国人は徳を修めてウィグルの人の気持ちを変えるべきです。

異民族の軍隊で国土人心が荒れてしまう。今も当時も同じ そう思ってこの詩をよみます。そのような時代、状況の心 わかる と思うのです。状況だけでなく 杜甫の清廉な意志も伝わってきます。