読書尚友

A reading room in Nagoya

118 江藤恭二 「ドイツのこころ」

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江藤恭二「ドイツのこころ ワイマール精神の探求」講談社現代新書 1980

江藤氏は海軍兵学校出身。海軍兵学校終戦で廃校となり東大へ。名古屋大学教育学部教授。規律を重んじる豪放磊落な方、とまわりからは思われていたし、「パンクチュアルに」(時間厳守)の声は耳に残っている。

今、江藤先生と同じ歳になり、この本を読み返してみると、著者の戸惑いを感じる。「海軍兵学校の講義内容はとてもリベラルであった」同席していたロシア語の丹部教授も海軍兵学校の同期であったが「そうそう」。リベラルな教育をうけながら、戦況は悪化し死を覚悟せざるを得ない日常をすごした世代。一世を風靡していたナチスのドイツ精神。日本であってもそれは流行し、それが現実を成していた。しかし、ドイツの文物を研究するなら、規律重視のプロイセン的でないもの、ナチス的でないものが横溢している。

著者が指摘するのは、

(1)個性的な存在、個性の自由を尊重するレッシング、ゲーテ、シラーの自由な精神。毛色の変わった人をむしろ評価する傾向(2)タキトゥの記す Deutsche Treue ドイツの誠実 家族間の信頼 家族愛 (3)ドイッチェス・ゲミュート ドイツ的心情 心の均衡・調和・平静 にこやかに迎えられ 暖炉の火は燃え のびのび安らぐ 人間性の素朴 まことの愛から発せられるのがゲミュート

江藤氏のとまどいとは 彼は明らかにドイッチェス・ゲミュートの人であったが まわりは海軍兵学校出身、規律のドイツ精神の体得者と遇していた こと かな? そして彼はこの本を書いて配った のでしょう。

ドイツ人はドイッチェス・ゲミュートの人々か シャキッとしたプロイセン精神の人々か。私の経験では江藤氏の御指摘のドイッチェス・ゲミュートの人々。妻とフランス、ドイツの旅。知り合いのエリカさんとウヲルターさんも家族的に厚遇してくれました。小さな旅館はいい温度管理で居心地がよく、料理がおいしい。町でみかけるシェパード犬がやさしい。駅の切符の自販機に犬のマークがあり、犬も列車に乗っていい。家族扱い。シェパードから判断して、ゲミュートリッヒ。