セリーヌ「夜の果ての旅」生田耕作・大槻鉄男訳 中央公論社 昭和39年
陽気な心象自伝。おもしろい。情熱的に生きる苦しみと愚かさが描かれる。トロツキーは泣き笑いしつつ読んだ、とされる。ヘンリー・ミラー、ロラン・バルトが高く評価。サルトルの「嘔吐」のエピグラフはセリーヌの言葉。
ルイ・フェルディナン・セリーヌ 1894-1961
墓碑には「否 ノン」ひと言だけ。誤解され忘れ去られた人。18歳で志願兵に。戦功あり負傷、雑誌で賞賛された英雄。1932年「夜の果ての旅」で文壇の寵児に。ヴィシー政府ナチスを嫌悪。ユダヤ人批判。ソ連、スターリン批判。終生スラム街の医師。第一次大戦後のフランスをスラム街の感性から描く。戦犯、対独協力者として服役。
悪評の人、下調べの後で読むと、偏見でワカラナクなるし、楽しめない。私のおススメは、エピグラフを三読、この心、スイス衛兵の認識を身につけて読む。
ひとの世は冬の旅、夜の旅。同感。
もうひとつのエピグラフにも同感できたら、読み始めましょう。
失望と疲労。今日のあなたも。いやだな、というものは、現実ではありません。現実の生み出す幻想と気づき、人生は「その向こう側にひろがっている」とセリーヌは言って、元気づけてくれているのです。
明るい物語。疲労と絶望の記述をそのままうけとめてはなりません。その向こう側を常に意識できないとこの小説は読めない。訳者の生田という方も読めていない。目をとじて読まねば。
やっぱり眉唾もの と思う人のためにオックスフォード大学版フランス文学案内を引用。tough-but-tender record of the French scene and his experiences during and after the 1914-1918 war. 荒々しいが優しい 第一次大戦と戦後の時期のフランスの心象記録。スラム街の医師の歌。