読書尚友

A reading room in Nagoya

100 吉田健一「旅の時間」

f:id:Balance1950:20210903125920j:plain


吉田健一「旅の時間」講談社学芸文庫 2006年

ここまでの本はとても好きな作家、作品を並べました。しかし、今日の吉田健一はイイナとは思うけど、好きにはなれない。旅の随筆はイイ、英国文学への言及はスゴイ。「英国の文学」、長い冬のイギリス文学への影響とか、瞠目の記述ではある。

父の吉田茂首相も子の健一氏も個性的で自由な例外的日本人。他の首相より風格あり、他の作家よりのびやか。

たとえば、ニューヨークの旅。私も昨年の夏ニューヨークを旅行。その季節の感触、そのまま、そのもの。名文。思い出してしまう。この文に出会わなければ思い出さなかった。通りを歩く意識も、人間って同じ。あの暑さの不快感。しかし、はいっていくバーがちがう。値段も気にせずバーテン任せでカクテル。それがニューヨークの暑さとバランスするのです。その英語力。黒人のバーテンを微妙に喜ばせる語り、よいものを聞き出すリスニング能力。二人は旧友のようであり、さらに、さりげない。

私はニューヨークで言葉が通じなかった。おし 口がきけない人 の扱い。それぞれ早口の多様な民族の訛り。自由かもしれないが、遅れるヤツはほったらかし。しっとり人と向き合う、など考えも及ばず。とにかくみつけたレストランでまずい食事。ガイドブックの高価なステーキ店もまずいし、落ち着かないし。

吉田健一は季節が変わるまでステイ。あわただしく帰国の私とは大違い。

つまり、好きになれないのは、この違い。京都はいい。しかし、南禅寺界隈で広壮な別荘を持つ人の京都談義を好む気持ちにはなれない。