読書尚友

A reading room in Nagoya

86 田辺聖子 「とはずがたり」

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新潮社 平成25年

田辺聖子の古典まんだら」古事記から古川柳まで、テンポよく要領よく いきいき解説。読者のもち時間を配慮、盛り上がる構成。

源氏物語」の章はない。モンテーニュ「エセー」にキリスト教の議論がないが如く。逆に群書にない「とはずがたり」がある。

とはずがたり」文庫本で全文読んでみたが、読めなかった。高貴モテモテ女性の本人語り。本音、登場人物は実在。事実そのままで、どこがどのようにスキャンダラスか ワカラナイ。鎌倉時代、若き高僧と宮廷美女の密通。最高権力者(院)らしき人物が病気、高僧である弟が祈祷の折に兄の彼女に迫る。それが純情な好青年。 ウワサでしょう、ではすまされない、本人が告白しているのだから。「とはずがたり」本篇を読み進むのは難事。

田辺聖子の紹介文はドラマチックで明快。鎌倉時代の貴族は「源氏物語」の世界を生きようとしていた、という田辺解説でなるほど となる。後深草院は作者・二条を四歳で引き取る。二条の母 典侍大 は後深草院の新枕の相手。(田辺解説)母は亡くなるが院は思い続け、子の二条に執着。十年待ってわが物に。光源氏が幼い紫の上を引き取るのと相似形。

とはずがたり」を読んでいると、後深草院・・・執念深い変態? と思ってしまう。院が迎えに来る日 二条は14歳 自覚はなく 眠ってしまい 気がつくと隣でおっさん(院)が寝ている。びっくりして逃げようとしてつかまり・・ 院としては十年待っての快挙。二条も実家は継母とその子らの世界で居場所なし。宮中住まいがベター。やがて紆余曲折、宮殿を追い出される二条。「院 ヒドイヨ」 ここが源氏物語と違う現実。リアル過ぎて、美しさとか余韻とかはない。

とはずがたり」は田辺聖子の「古典まんだら」で読むのが良い。華麗でスリリングな世界に再構成されている。