読書尚友

A reading room in Nagoya

148  吉行淳之介「廃墟の眺め」

1967年 山本容朗 編  吉行淳之介「私の東京物語」所収

毎日のウクライナのニュース。廃墟となった町。やがては復興してゆくのであろう。

その心象風景は 吉行のこの短編小説の如きものとなるのであろうか。戦争で死んでいった知人友人を思い出し、生きている自分。希薄な空気 ひりひりするような感触。

行き交う人の中には満州帰り、ソ連軍に集団暴行された女性もいたのであろう。それが文中の花野美枝子なのである。

5行目~7行目の風景描写で思い出すのは・・ 故郷 大須小の隣の学区栄小学校の校庭を掘ったら高熱で焼き上げたような地層が出てきたという話。80年前のアメリカ軍の名古屋空襲の跡。父の家も母の家も焼かれ、母は夜中逃げまどい、夜明けには本願寺別院の大きな御堂が形を保ったままオレンジ色に燃え続けるのをみんなで見ていたとのこと。本当に綺麗だったそうです。

 

147  直木三十五 文壇諸家価値調査表

文芸春秋大正13年11月号

直木賞の直木三十三(のち三十五)作成

高い評価の芥川龍之介 未来97点 ノーベル文学賞の川端 未来72点

世評は世評。大正13年の雑誌読者は頷いたのでしょう。

好きな女 吉原、淫売 というのも何ですが 素人 向かいの娘 というのもね・・

資産 という項目が お宝鑑定団的に興味深い。骨董、酒、不良性。喧嘩、手下。

TV番組は骨董鑑定であるが、酒格、不良性、喧嘩の鑑定番組も見たい。資産としての手下、清水の次郎長は講談にあるが、マッカーサーにはどんな手下がいてどう動いたか知りたい。

文士というのはどんな人種か 大正時代の文芸春秋は率直に伝えてくれる。

出版資本の化身であった菊池寛、現代文芸の劣悪さを示す直木三十五 このあたりを見てから近現代の日本文学散策を始めるべきであった。

146  山口洋子「あの人をどこまで知ってますか」

青春出版社 1993年 イラスト / 山口はるみ

山口洋子 銀座クラブ「姫」のママ 作詞家 著作家

銀座のホステスは男のどこを観察しているのでしょうか?

笑顔のいい男。目と歯がキレイなのがいいそうです。

御本人は若いころ、警察から追われている暴力団員を匿ったりしているので、「笑顔がいい」といっても、あなたの考える笑顔とは違うのかもしれません。

中条きよし ♪ うそ 石原裕次郎 ♪ ブランデーグラスの作詞家。

145  テリー伊藤のお笑いニッポン大改造計画

光文社 2000年

第1章は総論 南の島感覚 第2章は国会議員年俸600万円案

愛と笑い 洞察。国際感覚あり。

 

気になるのは テリー伊藤氏の言動・人品骨柄。

セクシーな議論は新鮮・・・

永井荷風は日記に

風俗業関係者の政治参加に苦言。

ウクライナ大統領ゼレンスキー氏は好人物なれど、前歴が喜劇役者。侵略者にはスキあり と映ったのであろうか。

 

144  阿川弘之・北杜夫編「斎藤茂吉随筆集」

斎藤茂吉ゲーテ

岩波文庫 1986年

"friegende oesterreiche Kronen!" 

「吹けば飛ぶようなオーストリアクローネ」

茂吉がウイーンにいた大正11年は1922年。ドイツの第一次大戦後のインフレーションは有名。オーストリアは大帝国の解体をともなって凄まじかったのであろうか。戦勝国日本の円は強く、留学生は本の棚買い ココからココまで 全部買う をしていたと聞いたことがある。

娘が鶴を折る、というのは日本人の客が教えたのであろう。

茂吉の随筆は 何か隠しているようで 私にはイマイチなものに思われる。当時敗残オーストリアの世相と売春婦の心情がオブラートで包んである、と推測。茂吉の和歌を尊崇する人が読んで有難がるための文であろうか。

143  ジュール・ヴェルヌ「海底二万里」

朝比奈美知子訳 岩波文庫 2007年

 最初に「海底二万里」を読んだのは60年以上前、小学校時代で、講談社 少年少女世界文学全集の一冊としてであった。ワクワクワクワクの読書体験。子供用でない訳文も、このように興味深い。

 今では 海底旅行も宇宙探検も現実のものとなった。

 知床の海底100メートルに沈んだ観光船にもまもなく潜水夫が向かうという。しかし8億円。宇宙旅行も今や参加可能。60億5000万円。深海も宇宙も居住環境は過酷。

 ここで描かれているのは 深海の図書室。ワクワク。しかし現代の現実の潜水艦にはこのような優雅な空間はない。このノーチラス号の図書館の書棚には経済の本は一冊もないと明記されている。ヴェルヌは深海探索、宇宙旅行を予言しているが、巨額の費用もわかっていた、ということであろうか。

142 サガン「悲しみよ こんにちは」

Francouise Sagan

「悲しみよ こんにちは」朝吹登水子訳 新潮文庫 昭和30年

太陽のきらめく南仏の海岸が舞台ではあるが

「17歳の私 セシル」の世界は・・

 

清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき

端役の人もワンサ 映画の大部屋女優

 

その子はたち櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな  与謝野晶子

二十歳とはロングへアーをなびかせて畏れを知らぬ春のヴィーナス 俵万智

 

桃だけが私の味方この恋を白き椿も梅も許さず 俵万智

エルザの思いを椿 アンヌを梅にみたて セシルは桃の花

 

与謝野晶子「みだれ髪」の世界と重ねて 暖かく見ておきたい。