元禄期の無名作家の俳句集成・評釈。
新年
蓬莱や日のさしかかる枕もと 釣壺
蓬莱を飾った枕許に元日の朝日がさしている。めでたい句である。
春
玉椿落て浮けり水の上 諷竹
「落ちて浮けり」に時間の経過、椿のどっしり感がある。
裏門の潜(くぐり)に見ゆる青葉かな 野紅
簡単なスケッチであるが これほど単純に句にすることはむつかしいい。
夏
客人に水汲おうとや夏の月 吾仲
井戸であるからつめたいことは請け合いである。
秋
木犀のしづかに匂ふ夜寒かな 賈路
少しの隙もみせないのは実感だから。静止したやや長い時間が必要。
冬
こほる夜や焼火に向ふ人の顔 岱水
焼火 たきび。平凡なようで力強い句。
五つの句はワタシが選びました。評釈は著者、柴田氏。
親しみやすく 実感できる句ばかり。ただ、現代では焚き火はできないし、くぐり戸や木犀のある庭のある家も少ない。失われた世界の詩情というべきであろうか。