読書尚友

A reading room in Nagoya

174 柴田宵曲「古句を観る」

柴田宵曲(しょうきょく)「古句を観る」岩波文庫 1984年 

元禄期の無名作家の俳句集成・評釈。

 

新年

蓬莱や日のさしかかる枕もと 釣壺

蓬莱を飾った枕許に元日の朝日がさしている。めでたい句である。

玉椿落て浮けり水の上 諷竹

「落ちて浮けり」に時間の経過、椿のどっしり感がある。

裏門の潜(くぐり)に見ゆる青葉かな 野紅

簡単なスケッチであるが これほど単純に句にすることはむつかしいい。

客人に水汲おうとや夏の月 吾仲

井戸であるからつめたいことは請け合いである。

木犀のしづかに匂ふ夜寒かな 賈路

少しの隙もみせないのは実感だから。静止したやや長い時間が必要。

こほる夜や焼火に向ふ人の顔 岱水

焼火 たきび。平凡なようで力強い句。

 

五つの句はワタシが選びました。評釈は著者、柴田氏。

親しみやすく 実感できる句ばかり。ただ、現代では焚き火はできないし、くぐり戸や木犀のある庭のある家も少ない。失われた世界の詩情というべきであろうか。