読書尚友

A reading room in Nagoya

183 ヌーヴェルダンス横断

前田 允 (ただし)「ヌーヴェルダンス横断」新書館 1995年

ヌーヴェルダンスとはフランス文化圏の呼称で 日本、米英ではコンテンポラリーバレエと呼んでいるバレエのことである。

前田教授は私の大学院の恩師で舞踏についての講義を持ってみえた。選択したのは私だけであった。課題が「バレエの脚本を書け」というもので、他の院生は誰も選ばなかった。入学式の時から変わっていて 他の教授たちは一段高い場所に座ってみえたが、前田教授だけはそこから降りてウロチョロしてみえた。白髪の長髪が乱れ髪で、風体が変わっていた。

 講義は一対一 渋谷の喫茶店で議論は延々と深夜に及んだ。陽気で飾らない 少しも権威的なところはなく 私の言葉に耳を傾けてくれた。フランスでの学生時代の話など面白かった。終わって渋谷駅に向かうのであるが広い横断歩道 信号は赤 教授は疾走して渡る。深夜で車はこないのであるが・・。私もそれを追って走った。活気がある というのか 自由というのか 稀な体験とは言える。

 何の会であったか 大きな会場の壇上で 先生は森下洋子と対談をした。私も鞄持ち風に随行。バレエの終わった後の舞台空間は照明がきつく 頭皮が熱くなった。先生から「君はフクロウのように目をひらいて静かにしておってくれ」との指示があった。若者たちのグループの発表会にもよく一緒に出かけた。バレエ団の人たちは前田先生が来た ということだけで喜んでいた。中央前方に特等席が用意されていた。

 

本題 ヌーヴェルダンスとは何か。

今までの言語芸術に代わって 身体 舞踊で表現する芸術。様式を持たない純粋状態での創造。

それは現代の 知的欲求を満足させない宗教 英知のない学問 幸福のない喜び から脱し肉体的知的存在の鋳直し である。