読書尚友

A reading room in Nagoya

161 リカードウ全集

大学1年 一年かけてアダム・スミス「諸国民の富」を読みました。大学の講義には出席せず、ただひたすら読み続けました。学年末の試験は すべての科目で アダム・スミスならこう答えるでしょう ということで回答。優・良・可・不可の評価でしたが 多くは可 良もありました。進級。

さて2年 夏休みにリカード「経済学および課税の原理」にとりかかり、これは一夏で読了。薄い本です。上掲写真左端の文庫本。経済現象が理論的にとらえられるようになった という実感がありました。

そのころ雄松堂から「リカードウ全集」が発行され始め 一冊づつ購入。仕事についたばかりの時期で忙しく 買うだけで読んでありません。また、リカード理論はわがものにしたのだから、手紙とか紀行文は読む必要もない と考えておりまし。

雄松堂は不定期に刊行、私は職業を4回変え、東京、北海道、名古屋と転居、全巻はそろっていません。9冊所有 あと1冊。

老境となり 今週 手紙を読んでみました。

とてもいい。

当時の経済情勢がわかる。お金持ちのリカードがフランスで無一文(フラン)。金貨(ポンド)はたくさん持っていても使えない。宿の主人に借金。馬車は自家用を大陸に運び、それで移動。鉄道未発達、銀行のカードもない時代。

その馬車が素晴らしい、リカード本人は言っていないが、手紙にありました。 下掲。

 

リカードの馬車の走らせ方は ノロノロの安全運転で 男たちからは評判が悪かったそうですが、人柄が伝わってきてうれしい文章。今のメールと比べて 優雅な世界と思われます。

160 モーム「要約すると」中村能三訳

2023年の年賀状でこのWebページを見た友人からメールが来ました。

モームの本 全部読んだの?」

私は返信に「あと10ページで読了」。 今日読み終わり、この文章に加筆しようと二番目に気になったページを写真にとりました。そしてページを開くと  すでに同じページが掲げてありました。 老人のやることは ・・・ いや よく見ると違う。

以前から掲げてあったページは中村能三訳「要約すると」112頁。今回読み終えたのは行方訳「サミング・アップ」334頁。

中村訳 われわれは感情の奴隷である  (老人は感情の支配から解放される)

行方訳 人間は情熱の奴隷である    (老人は情熱の支配から解放される)

正確に友人の問に答えるなら、

「二度読みました。私にとって大事な部分は同一でした。老境で前に読んだことを忘れて読んでいました」

サミング・アップ」行方昭夫訳 岩波文庫

The SUMMING UP by W.Somerset Maugham 1874-1965

第73章後半

モームの言葉に十割の同意をする。

「老年の方が時間に余裕がある。

カトウは80歳でギリシャ語を習い始めた。

完全な一生、完全な絵模様は老年期を含む。」

わたしは幼稚園のころから老人となることを渇望していたが、今、そうなっていて有難い。

追いかけて 追いついた 風の中   放哉

 

Agree 100% with Maugham's words.

"Older people have more time.

Kato began learning Greek at the age of 80.

A complete life, a complete picture includes old age. ”

Ever since I was in kindergarten, I have longed to become an old man, and I am grateful that I am now.

 

100% 同意毛姆的話。

“老年人有更多的時間。

加藤 80 歲開始學習希臘語。

一個完整的人生,一個完整的畫麵包括晚年。 ”

從上幼兒園開始,我就渴望成為一個老人,我很感激現在的我。

 

なぜ岩波文庫の表紙はタペストリーなのだろうか?

一生を絵模様とに譬える冒頭の文章を 私は想起する。

そして率直で矛盾した凡人こそおもしろい とモームは言う。

イイね。

 

 

この本は老境をどのように過ごすか についての 今のところベスト・アンサー。

最後の一節が一番良い

 

人生の美はこれに尽きる、即ち、各人は自らの性質と仕事に応じて行動すべし。

     17世紀のスペインの修道僧 ルイス・デ・レオン

 

ただ行方訳のキーワード語の訳に疑いは残る。スペイン語で「仕事」はどんな言葉か? ・・・

159 斎藤茂吉 「つきかげ」

71歳になって はじめて斎藤茂吉の短歌にはじめて共感を覚えた。

最晩期の「つきかげ」の歌においてである。

 

朝飯をすまししのちに臥処にてまた眠りけりものも言はずに

あさいひ      ふしど

 

私は今朝 そうであった。体験する心情は同一かな。

一首だけでなく

 

「ひとりぽっちで、厚ぶすまで体をうづめ、とっぷりと獣類の穴籠ごもりするやうな感じで、ほのりほのりと暖まるといふことは、全身が清爽で何ともいへぬ終末である」

    「老境」昭和24年

 

黄海もわたりゆきたるおびただしき陣亡の馬をおもふことあり

 

戦時への追想。戦争で死んだ一切の無言の生命への哀悼。

私もガダルカナルから帰った父の言葉を時々思い出す。自分が職場で歯をくいしばったいやな思い出ではなく、思うのは幕末の尾張藩青松葉事件で切腹した祖先のことであったり、父の戦時の話であったりする。そんなに多くを聞いたわけではない。知っているわけでもない。

 

一様のごとくにてもあり限りなきヴァリエテの如くにてもあり人の死ゆくは

 

いつしかも日がしづみゆきうつせみのわれもおのづからきはまるらしも

 

同感である。

158 渡辺美代子「ヒロシマ・平和のリボン」

 

The Peace Ribbon Association is a group of seven classmates from a girls' school in the hypocenter of Hiroshima (abolished school).

You can see the testimony of the atomic bombing. It was a 67-page booklet and was sold at the Hiroshima Peace Memorial Museum shop. The first time it was conspicuous, and when I went the second time, I asked the salesperson and it came out. There is also an English version.

These days, everyone is heartbroken by daily reports of the harsh war situation in Ukraine. However, 80 years ago Japan was a more brutal battlefield. The words of an experienced person are vivid.

ヒロシマ・平和のリボンの会 編集発行 代表・渡辺美代子 1991年

平和のリボンの会というのは 広島の爆心地の女学校(被爆廃校)の同級生7人の会。

被爆の証言をしてみえます。67ページの小冊子で広島平和記念資料館売店で売っていました。一回目は目立つ形で、二度目に行った時は売り子さんに聞いたら出てきました。英語版もあります。

毎日ウクライナの過酷な戦況が伝えられ、みんな心を痛めている今日このごろです。しかし、80年前の日本はもっと残酷な戦場だった。経験者の言葉は鮮烈です。

 

157 小池昌代 編著「通勤電車でよむ詩集」

NHK出版 2009年

小池昌代さんは 石原吉郎の詩を「朝の通勤電車で読もう」という。詩集の二番目に石原の詩を掲げる。「わたしはこの詩に、無限の優しさを読む。そして戦いと流血の跡を」(154の石原吉郎の随筆参照)

ワタシはシベリア抑留の過酷な日の影の濃い詩に共感することができなかった。石原詩は私には解凍できない。しかし、小池さんの指摘 通勤電車で読め やさしさが漂っている 」に同意する。 登山口が見つかった気がした。

共感できた 同じなんだ 

石原さんは やさしい 満員電車の背中に立っているような人。

そのために 小池氏は 最初に まど・みちお の うたをうたうとき 

からだを ぬぎすてて

こころ ひとつになり

の詩を置いている。注文の多い詩集。

配列に道標を埋め込んでいる。古今集のような配列美。(136 古今和歌集 参照)

まどの童歌の世界 → 石原のシベリア抑留帰りの世界 → イタカへの旅の世界 ギリシア神話のオデュセウスの冒険  小池さんの通勤電車の旅路

 

 

Masayo Koike said, "Let's read Yoshiro Ishihara's poem on the morning commuter train." Ishihara's poem is listed as the second of the collection of poems. "In this poem, I read infinite kindness. And traces of battle and bloodshed."

I could not sympathize with the shadowy poetry of the harsh days of Siberian detention. I can't decompress Ishihara poetry. However, I agree with Mr. Koike's point out that reading it on the commuter train has his kindness. "I felt like I had found the trailhead."

I could relate! "It's the same"

Mr. Ishihara is the kind of person who stands on the back of a crowded train.

For that reason, Mr. Koike first said that when he sings his song by Michio Mado,

She stripped her body

Become one with your heart

I put the poem of A highly requested collection of poems.

I am embedding signposts in the array. Arrangement beauty like Kokinshu. (Refer to 136 Kokin Wakashu)

The world of Mado's children's songs → The world of Ishihara's return from Siberia detention → The world of the trip to Ithaca The adventures of Odysseus in Greek mythology The journey of Koike's commuter train

 


And, like a collection of poems edited by Toyokichi Endo, there are gems of short sentences.

 

 

そして遠藤豊吉編集の詩集のように珠玉の短文がそえられている。

 

私は1978年冬 遠藤豊吉団長のロシア・ウクライナ旅行に参加。アエロフロートでモスクワ、シェレメチェボ空港に到着。マイナス30度。ラジオのニュースが「マローズ(寒波)」で始まる厳冬。  ロシアからウクライナへ移動。明るくなり、食べ物がおいしくなり、言葉がロシア語でなくなった。旅行団を迎えるキエフの代表中年女性には古都の優雅さを感じた。しかし実権はより若いキビキビ動くロシア女性が握っているようであった。 市内観光 白一色の広場の中央に銅像。「誰の銅像ですか?」北を指さす銅像は マルクスレーニンスターリンではなさそう。「ウクライナの・・・将軍。ウクライナはロシアとともに という意味」 ウクライナはロシアの均質の一部と思っていたが、わざわざ銅像で連帯を確かめる必要がある と知った。今 あの銅像 どうなっているのでしょう。

遠藤豊吉さんは元特攻隊員で 陽気で豪快な人であった。ヒコーキが大好きで 眺めては「翼 よくやってくれるヨ」などと発言 よくわかりませんでした。

 

 

156 岡本文弥「ひそひそばなし」

松栄堂 昭和38年

玉川スミさんの都々逸につづき 岡本文弥さん

同感同感。

新派の舞台 今もやってみえるのでしょうか。

岡本文弥の随筆は同じ書店からの「芸渡世」が先。読んでおきたい。玉川スミのCDもネット上で購入可能。他、浪花千恵子「水のように」 これはネット上で閲覧可能。

失われゆく世界。

玉川スミの晴れ舞台は多分 戦時中の大陸での皇軍慰問公演。過酷な戦場での憩いのひととき。聴衆の兵士たちを 今の人は侵略者として一顧だにしないのであろう。

わたしはドドイツの聴衆の悲しみ、歓びをもっと知りたい。

 

このWebページ 本日5月23日現在 来観者2320人。ささやかですがセリーヌフルトヴェングラーとかR.H.ブライス などに興味を持つかなりの人々が来訪。

 

155 玉川スミ「ドドイツ万華鏡」

くまざさ出版社 1999年

爪弾きに声を落とした小唄の渋さ キャバレーじゃ聞けない江戸の味

何度逢うてもきらいはきらい 一度逢うても好きは好き

惚れて通った昔が恋し 今じゃあきれて戻る道

ちょこで受けてるお座敷よりも 二人で呑みたい茶わん酒

初めて見染めて初めて惚れて 初めてはじめるはずかしさ

三歳のときに27円で売られる。「おとうちゃんがお酒飲めるなら行ってもいい」

三歳で初舞台。 ♪ タコに骨ないナマコに目がない わたし子どもで色気ない

 

スミ姐さんに唱和

泣けてくるけど 笑ってしまう こんな小唄に出会いたい

 

三歳の娘を膝にのせて声をあげて泣くおとうちゃん

エンペドクレスのカタルシス 罪からの魂の浄め